行くぜ木曽駒!中央アルプス!(3) ~九合目~木曽前岳、木曽駒ヶ岳、中岳、宝剣岳全部!~

 写真を撮りながらゆっくりとはいえ、水場と避難小屋で数分の小休止を取った以外にはほとんど歩きっぱなしなので流石に休憩を取ったほうがいいのだが、明らかにこれまでと違う高所の空気に興奮してもっともっと先へ行きたいという気力が勝っていた。 とりあえずエナジーバーをひと齧りし今後の方策を練る。 コースタイムよりだいぶかかってしまったがまだ正午前なのでゆとりはだいぶありそうだ。 これなら当初の予定通り木曽前岳に行ってきても十分宝剣岳まで間に合うだろう。 

 そう判断するが早いか、ザックを下ろして標識にチェストストラップで括り付けると財布とカメラだけ持って木曽前岳への登りへ踏み出した。 ここまでトレランの兄ちゃんしか会わなかったし、前にも後ろにも人気はない。 玉ノ窪山荘は休業中で誰もいない。 このザックを盗んでいくような人間はいないだろう。

PA010894.jpg

 さて、この九合目から木曽前岳まではアルペンガイドでは20分ほどと書かれていたし、下からでも頂上らしき場所は見えておりそんなにはかからないだろうと判断していた。 ところがどっこい「下から見えた頂上らしきところ」に着くと、向こうにもう2つ3つとこっちより高そうな小ピークがあるのだった。  

PA010896.jpg


 ああやっぱりね、と微妙に納得しながら次の小ピークを目指すと、二つほど先に見える棒の立っているピークが一応の最高点のようだ。 ロープが張られているしそれほど難易度があるわけではないが、左(南)側が切れ落ちており転倒・滑落したら大変なことになりそうなので慎重に進む。 で、最高点ぽいところに着いたが塗料の禿げたボロい道標があるだけで立派な山頂標があるわけでもなく、ここに立つともう一つ向こうにある小ピークが一番高そうに見える。

PA010898.jpg
ん?向こうのほうが高くね?

 仕方なくそこまで行くと祠があるのだが、こちらから見るとさっきいたピークのほうが明らかに高かった。 いちおうさらに向こうに見える小ピークは明らかにこっちより低いし、九合目からこの祠まで来たら間違いなく山頂は踏んでいるだろうという事で引き返すことにした。しかしこの余計な小ピークの分で無駄に時間を使ってしまった。 

PA010900.jpg

PA010903.jpg
今度は向こうのほうが高く見える

 帰りに一番高そうなピークでもう一度写真を撮り、もう一つ山頂らしくケルンを積んである小ピークでも写真を撮ってやっと九合目に引き返した時には12時30分を回っており、往復40分どころか1時間経ってしまっていた。 ちなみに木曽前岳は御嶽山方面の眺望が開けているはずなのだが、タイミング悪くちょうどこの時下から湧き上がってきたガスにまかれ遠くのほうは何も見えなかった。 上のほうは青空が広がっているので、自分のいる2800m~3000mのあたりに雲の境界があるのかもしれない。

PA010908.jpg

PA010912.jpg

PA010916.jpg
小ピークから見た宝剣岳

玉の窪山荘の石垣の間の通路を抜け、いよいよ木曽駒主峰の頂上を目指す。足はだいぶ酷使しているが思ったより疲労は溜まっていないし、この登りをこなせばあとは中岳の緩やかなアップダウンがある程度でそれほど厳しい登りは残っていないので心配はない。 水も思ったより消耗していないので宝剣山荘までは十分持つだろう。  気合を入れ直し最後の急登をこなす。 最後の登りは富士山のようにロープが張られ、両脇には神社だか不動だか、立派な石塔がたくさん並んでいてこの山が信仰の山だという事を否応なく感じさせる。
PA010918.jpg

PA010920.jpg

しばらく進むと岩のテラスに前をちょろちょろと飛び回っていたイワヒバリがひょいと降りてきて「さあ、撮れ」とばかりにポーズを取った。 なんて人懐っこいやつなんだ。思わず笑みがこぼれ緊張感がほぐれる。 

PA010923.jpg

そして山小屋。 頂上直下にあってこの時期でも営業している頂上木曽小屋だ。 小屋番さんらしき人から「福島かい?」と声がかかる。
 「ええ、Bコースから上がってきました」 ロープウェーを使わず自力でここまで来たことがちょっとだけ誇らしい。再び前に向き直り、すぐそこに見えた神社の小さな鳥居を通り過ぎると、そこが木曽駒ヶ岳2956mの頂上だった。 やった!

PA010927.jpg

PA010931.jpg
イエーイ


 いやった! 
 甲斐駒ケ岳のように両手を使わなければ登れない山ではなかったし、前の日は夜遅かったので下から山容を見れたわけでもなく「ホントにこんなとこ登れんのかいな」と不安になるような山でもなかったが、やはりかなりの長丁場で登りごたえのある山だった。一日あたりの標高差1900mはおそらく過去最高だから達成感が大きいのも当然だ。

PA010933.jpg

PA010934.jpg

PA010939.jpg

PA010940.jpg

PA010943.jpg


 富士山では行動に支障が出るレベルの不調は九合目(3400m)からだったが、今回はそれほどの標高ではないとはいえ標高差が大きいので出発前は微妙に高度障害が不安だった。しかし寝不足にもかかわらず全く不調はない。頭痛や吐き気はおろか放屁もゲップもないという事は、まあだいたい3000mまでは心配はいらないという事だろう。

 残念ながら周りはガスに覆われて大展望というわけにはいかないが、青空が出て太陽の恵みを受けていることは感謝せねばなるまい。 真昼という事もあるがこの高度でウィンドブレーカーもいらないという事はこの季節としてはかなり穏やかなのだろう。 紅葉シーズンとはいえ3000mに近い標高、荒れれば一発で命に係わる状況になる場所で(実際に昨年7月にはこの山域で韓国人ツアー登山客の大量遭難が起きているし)この穏やかさはまだツキがあるほうなのだろう。 

 とりあえず20分ほど写真を取ったり山頂付近をプラプラしていたが、今回は荷物軽量化のため頂上ラーメンの予定はなかったので適当なところで山頂を後にして本日の宿泊場所である宝剣山荘へ向かうことにした。 頂上から降りる途中、白黒ダンダラの鳥がいて一瞬「ライチョウ!?」かと思ったが、ごっつく黒い嘴をもった高山帯にいるカラス「ホシガラス」であった。残念。

ホシガラス
ホシガラス ごつくてイマイチ品が無い

宝剣山荘の手前には中岳がありるが、ここは当然頂上を踏んでいく。 巻き道でも時間的に大差はないし、見たところ巻き道のほうが急斜面ギリギリで危なっかしい感じがしたからだ。

PA010946.jpg
左が頂上通過ルート。右が巻き道 

PA010955.jpg
頂上稜線 中岳のあたりはガレ場が続き荒涼としている

PA010957.jpg
中岳の高点

PA010959.jpg

PA010958.jpg
中岳から見た和合ノ頭(2911mピーク)方面 明日通るルート なかなかかっこいい

とりあえず2つある高点の適当なところで写真を撮り、空中にせり出した石の舞台のようなところは怖いので軽やかにスル―し先へ進む。まだ余裕があると思ったが2時を回り日も傾いてきた。のであまりのんびりしないほうがいいだろう。明日は天気が崩れるかもしれないので体力的には厳しいが今日のうちに宝剣岳までは登っておきたいのだ。

PA010968.jpg

中岳からの下りに入ると宝剣岳との鞍部に建物が二つ見える。 一つは天狗山荘、もう一つが宝剣山荘だ。とりあえず無事に今日の宿までたどり着いたわけで、だいぶ緊張感がほぐれた。 これはとんでもない間違いだったわけだが…

 とりあえず宝剣岳に登る前にチェックインを済ませて清算してしまう。 これで万が一宝剣岳から落っこちても夕食の時間に戻らないとなればすぐ通報が行くであろうし、無駄な荷物も置いて行ける。  そしてこういう山小屋では少しでも出費をケチることもあってめったに飲み物類を買わないのだが、ついに350円のコーラを買ってしまった。 ここまでにスポーツドリンクはほとんど飲みきってしまって残りの水は1リットルかそこら。 南アルプスと違い水事情の悪い中央アルプスの山小屋では水もタダではないことがあるのでどうせ飲むならコーラを飲んでしまおうと思ったわけだ(実際には宝剣山荘では宿泊客には無料で分けてもらえる)。 いつも下山後も家に帰るまではビールを飲まない性質なのでコーラだが、この時のコーラは本当にまた格別であった。

 コーラで一息ついたらザックの雨蓋からGPSを取りだし、カメラを首から下げいよいよ宝剣岳に向かう。 福島Bコースの核心部は七合目から八合目までのちょっと足場の悪い山姥あたりだが、全行程で一番ヤバい核心部は今日の最後の最後、宝剣岳の往復であった。 宝剣岳のルートは山荘がわ(北稜)と南がわ(サギダル稜)があり、サギダル稜のほうが鎖場、段差、距離、所要時間ともほぼ倍であり、北側往復ははるかにちょろいはずなのだが、それでもろくに登攀やロッククライミング、ボルダリングの訓練もしておらず鎖場が苦手な自分には鬼門であった。 

 ロープウェーで千畳敷までやってきてちょろっと登ってみっか、という観光客もいるし、鎖が張られていて難易度は低いことにはなっているのだが、何より宝剣岳は事故が多いというのが心に引っかかる。 もちろんそういうのは冬(積雪期)にカチンコチンに固まったサギダル稜とか東壁直登とかはるかに危険なことをやる人が多いからではあるのだが、例の大量遭難といい、自称ベテランがド素人を連れて行った出会い系遭難といい、ネットで知り合ってお互い本名も知らないグループが滑落事故をやらかしたりと妙な磁力を持っているのも事実。 油断してはなるまい。

PA010969.jpg

 そんなわけで宝剣岳、取り付きのところは足場がちょっと悪いな、ぐらいのものだし、下から見るとそれほどの傾斜にも見えなくて、最初のうちは「あれ?こんなもん?別にこんなとこロープ張るまでもないんじゃあ・・・」という感じだった。 ところが鎖場が出てきてからがやばかった。 右手(木曽谷側)がすっぱり切れ落ちているし、ふと振り返ると凄まじい高度感なのである。 そして鎖場、『なくても別にいいけど体を持ち上げるのにあったほうが楽だから』というのではなく、無いと絶対に行き詰まるし、手を放したら間違いなく落っこちるというところもあった。 いや、クライミングのテクニックを身に着けていたら違うのかもしれないけど、少なくとも自分はそうではない。 とりあえず頭で「三点確保」「全体重を鎖に預けない」という事は判ってはいるのだが、気づくと両手で鎖を握っていたりする。 次の手がかり(足がかり)を探るときなどは左手で鎖を握るのではなく、不安のあまり腕絡めにしてしまう事もあった。

 何度も甲斐駒と比べてしまうのはどうかと思うが、甲斐駒の場合基本的に二本足だけで立てないところはほとんどなかった。 両手を使わねばならないのは足で越えられない段差があるのを腕の力で補うといったところで、ブロック塀を乗り越えるようなニュアンスに近い。 そういう段差をいったん越えてしまえばすぐに二本足で立てるし、ハイマツが斜面に生えているので転んだり落っこちたところでそこで止まって、一見したところでは数十~数百m滑り落ちるようには見えないという安心感もあった。 それと比べるとここでは一回滑ったら止めるところはなく数十m下の岩場にまっさかさま、どうかしたら数百m下まで転がり落ち遺体はもうだれか判別不能・・・みたいになるのが手に取るようにわかってしまい、恐ろしさは全く比較にならなかった。

PA010970.jpg

そんなこんなで悪戦苦闘すること20分、ようやく山頂に到着。 しばらくの間後ろからやってくる人もおらず、多少チンタラしていても誰の迷惑にもならなかったのは幸いであった。 こういうところで恐怖のあまり行き詰ると前も後ろも進退窮まって多重事故につながりかねないのだ。 
 
PA010972.jpg

 さて、この山頂には有名な「頂上岩」がある。先端は幅60㎝かそこら。一人がやっとこ立てるだけのスペースしかない尖った岩で、そこが本当の最高点であるからしてできれば甲斐駒の時のように登りたいところではあった。が、その頂上岩に登るには足場の悪い岩場を飛び移り、なおかつ手がかり足がかりも怪しい岩をよじ登っていかねばならぬのだが、今の自分の技量と高度に対する恐怖感を抑えられない状態でやったら間違いなく落っこちて死ぬだろうなあ、というのが偽らざる気持であった。

PA010974.jpg
甲斐駒のようにはいかなかったorz


 もうひとつ二の足を踏むのが、ちょうど自分の前にも後ろにも登る人が途絶えていて、頂上岩に登ったところをカメラに収めてくれる人が誰もいないことだった。遠くから知らず知らずのうちに撮ってる人はいるかもしれないが、こちらからはそんなの見えないし連絡の取りようもないわけで、ここで写真も撮れないし無理をしてももうしょうがないな、という気持ちは固まっていた。 
「うん、これでもう十分」
ちょうどそのとき木曽谷側の雲が少し晴れ、おっそろしく切れ落ちているのが見えた。
PA010981.jpg

 早々に退散にかかったが、帰りの鎖場の中継地点みたいなところで何人かのグループが上がってきたので一旦停止せざるを得なくなってしまった。 こんな恐ろしいところとは一刻も早くおさらばしたいのだが、鎖場はすれ違えないので全員通過するまで待つしかない。 最後の最後までリラックスさせてもらえない山だった。
PA010979.jpg

鎖場を終えて二本足で立てるところまでやってくるとやっと人心地ついた。 もうこれで滑落死するような場所は終わりだ(実際にはそうではなかったのだが)。 あとはゆっくり山荘で飯を食って明日のために少しでも体を休めよう。 とりあえず恐ろしい宝剣岳を無事に終えたことに満足し、宝剣山荘へと入っていった。

PA010986.jpg

 宝剣山荘はこの時期もう食堂でストーブをガンガン焚いているので富士山の山小屋のように肌寒さを感じることはなく快適だ。 たっぷり時間はあるかと思ったが、同宿の人と駄弁ったり、自分のベッドでマッサージをしたり、フィールド図鑑で今日目にした白黒ダンダラの鳥を確認したりしているうちにあっという間に食事の時間になった。 今日はかなりの強行軍にもかかわらず朝食・昼食ともロクにとらず、行動食として少量の羊羹と甘納豆とクリフバーをかじっただけなので、ここでちゃんと食事をとって栄養補給をしないといけない。

 山小屋の食事は本当に差が大きいが、ここ宝剣山荘の今日のメニューはハンバーグ、トリカラ、さばみそ、春雨サラダ、刻みキャベツ。食器も相まってどこか学校給食のようだ。 デザートにわらびもちがついているのが細やかな心遣いで有難い。 ご飯、味噌汁、お茶はお代わり自由だったが何杯もおかわりするほど胃が頑丈ではないのでご飯は軽く半杯だけ、なぜか味噌汁がうまく2杯もお代わりしてしまった。 丹沢でもそうだったが知らないうちに塩分が抜けているのか、味噌汁が胃に優しく沁みるのか・・・。 高度障害が遅れてきて食欲がなくなるかと思ったが、とりあえずそういう気配はなく普通に食べられたのは良いことだ。 食後にドーピング的に賞味期限切れのアミノバイタルの顆粒を飲む。 三つ峠でも途中でアミノバイタルを飲んだら筋肉痛が起きずなんか効果があるような気がしたので試供品を今日までとっておいたのだ。 

PA010988.jpg

 飯を食い終わったあたりで一人中高年の登山者が入ってきた。 だいぶ遅い到着である。予約していないが泊まれるかと心配そうだったが、平日が幸いしてまだ空きはある(某ツアー会社の40人近い団体が入っていてだいぶ賑やかではあったが)。 夕食の時間を過ぎてのチェックインだったのでこのおじさんだけ昼食にも提供されるレトルトっぽいカレーライスだった。 なんでも頂上山荘(木曽駒と中岳の鞍部にある山小屋、頂上木曽小屋とは別)に泊まろうと思ったのだが、開いていなかったという。 そういや頂上山荘は九月以降は週末のみの営業だったんだっけ。 やはり実際にたどり着けるかどうかは別として、営業しているかどうかの確認の意味もあるから予約を入れておいたほうがいいのだろう。 もっとも北岳肩の小屋や北岳山荘だと少人数の予約は受けていないのだが・・・。

 さて、食後に歯を磨いて明日の用意をしていると急に睡魔が訪れた。まだ7時かそこらであったが、とりあえず布団を被ったらそこで突然記憶がブッツリと切れるように眠りの世界に落ちてしまった。やはり11時間ぶっ通しの連続行動は体に深い疲労をため込んでいたようだ・・・・。

スポンサーサイト

テーマ : 山登り
ジャンル : 趣味・実用

tag : 木曽駒ヶ岳

コメント

非公開コメント

プロフィール

piccoli

Author:piccoli
 自転車、釣り、スノーケリングにハイキングとアウトドア遊びばっかしてる不良中年です。 主な出没地域は三浦湘南、真鶴に奥多摩周辺。 

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
カテゴリー
月別アーカイブ
ブログ内検索
最近の記事
最近のトラックバック
最近のコメント
リンク
フリーエリア
にほんブログ村 自転車ブログへ にほんブログ村 自転車ブログ ツーリングへ にほんブログ村 釣りブログへ にほんブログ村 釣りブログ 波止釣りへ にほんブログ村 マリンスポーツブログへ にほんブログ村 マリンスポーツブログ シュノーケリングへ
RSSフィード