盗人にも三分の理

清水一行氏の小説は実在の会社を・人物をモデルにした経済小説と推理小説、そのほかに実際の事件をモデルにした犯罪小説がある。

 中でも犯人の生い立ちから掘り下げ、犯人の目線で描かれた作品は、残虐な事件であっても思わず犯人の側に感情移入してしまい、「もうちょっと経済的に上手く行ってたらこんな事件を起こさずにすんだのに」「変な男に引っかからなきゃこの人もこんな事件を起こさなかったろうに」と考えてしまう。

 粗暴な婦女暴行とか通り魔とかは擁護のしようが無いが、経済的に行き詰まっての犯罪は身につまされる。

迷路 (徳間文庫)迷路 (徳間文庫)
(1998/04)
清水 一行

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 「迷路」 は1980年に発生した「女子高生・OL連続誘拐殺人事件」の宮崎知子がモデルの小説。 犯行に至るまでの彼女の生活とバッググラウンドに焦点を当てた作品だ。

 タカリ虫というかジゴロというか、女に貢がせて当然のような態度をとる男に何度も引っかかり、無計画な男が浪費し、借金が嵩んだ末に凶行に及んだという見方をしている。

 この小説の中で描かれる二人の男(最初のダンナと二人目の愛人)はホントにどうしようもないエゴイストでイライラしてしまうし、そんな男でも自分から離れて欲しくないばかりに献身的に仕える主人公には哀れを催してしまう。 

 この小説ではプロローグとエピローグに判決言い渡しと、共犯と目された二人目の男の供述シーンがあるものの、陰惨な犯行のシーンが全く無いのと、主人公が病弱と金欠で苦しんだ描写が緻密なせいで余計に主人公への同情が高まってしまう。

 江波戸哲夫氏の「ドキュメントサラ金~欲望の破綻~」(ちくま文庫)に「男たちの不幸は男が自らの手で引き寄せる。それに引き換え、女の不幸は一緒に暮らしている男が運んでくることがしばしばである」という一節があるが、この事件はその究極形といえる。
 
 実際の犯人は逮捕後、「赤いフェアレディZの女」として毒カレー事件の林容疑者並みの叩かれ方をした事もあり、「生まれついての人でなし」のように見られてしまったらしいが、この小説は「状況さえ整えば誰がおこしてもおかしくない、フツーの女の同情すべき事件」という、新たな視点を開いたという点で特筆に価する。


惨劇―石油王血族 (徳間文庫)惨劇―石油王血族 (徳間文庫)
(1997/08)
清水 一行

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 「惨劇~石油王血族~」は1983年の「昭和石油(旧新津石油)取締役一家惨殺事件」の今井義人がモデルの小説。

 借金を断られ逆上した男が資産家の叔父一家を皆殺しにしてしまうという凄まじい事件だが、清水氏は単なる「逆恨み」と捉えず、事件の遠因を資産に物を言わせ強権的に振るまい、主人公の人生に常に圧力として存在し、恨まれるきっかけを作った被害者の過去の行動に求めている。

 主人公は大人になってからもバイトの延長でしか仕事をしないために生活力が無く(そのくせ3人も子供を作っちゃう)、不景気の波が押し寄せると同時に借金まみれになり、犯行に追い詰められてしまうのだが、このへんはどうも自分のことを書かれているようでケツがむずむずする。

 当初、主人公の母親が、「いつか遺産の分け前をもらえる」「実家は資産家だから援助してもらえる」と口癖のように言い続けていたのに対し、主人公が「叔父さんはケチだからなんの助けもしてくれない」と反発していたのに、大人になったらいつのまにか母親と同じく親戚の資産を当てにしているあたりが恐ろしい。

 犯行後あっさり逮捕されてしまう展開が、「迷路」と並び意外性がある。取調室や留置場で過去の自分の記憶が行ったり来たりするところに主人公の混乱振りが現れていて秀逸。ラストシーンも鬼気迫るものがある。

 それにしてもこの事件はふたつとも1980年代前半。今とは比べ物にならないレベルでサラ金が猖厥を極めていた背景を認識しておくとよりリアリティが増す。
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 自転車、釣り、スノーケリングにハイキングとアウトドア遊びばっかしてる不良中年です。 主な出没地域は三浦湘南、真鶴に奥多摩周辺。 

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