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神津島(3)

 チク   チク


    チリ       チリ


     ヂリ    ヂリ    ヂリ
 
 
「ほあっちゃっちゃっちゃちゃーーーーーーーーっ」
 
 
背中の焼け付く様な痛みで飛び起きた。
テントポケットを探って腕時計を取り出すとまだ10時。2時間しか寝ていない。

 ここ数年体験したことのない激痛だったが、理由はすぐにわかった。 ラッシュガードはもちろん、Tシャツも着ずに1日中シュノーケリングをしていたので日焼けで火傷の様になってしまったのである。 一番痛いのは肩甲骨の辺りだが、腰の辺り、脹脛、右腕の裏っ側などシュノーケリング中に日の当たるところは満遍なく熱を持っており、とても寝られる状態ではなかった。

 何度となく水飲み場で体に水を塗りたくり水を飲み、火照りを冷まして寝転がるのだが、数時間もしないうちに痛みで目が覚め、何度も寝返りを打つ。 うつ伏せになってはしっくりいかずまたすぐ仰向けになり、痛みに耐えられずマットと接触する面積を少しでも減らそうと横になりを繰り返していたが、痛みは皮膚の内側から出てきているので何をやっても無駄なのであった。

 こうしてうたた寝と飛び起きを繰り返しているうちに空が白み始め、無理やりに目を閉じていても眠ることができなくなってきた。おまけに水飲み場に行くため何度となく開け閉めを繰り返したテントの入り口から侵入した蚊の攻撃が始まったため、やむなく起床。まだ5時である。
 テント内の蚊は5~6匹だったが、たっぷり血を啜ったのか目に見えて肥えており、動きも鈍くなっていた。 癪なので片っ端から撃墜にかかると、潰れる度に驚くほどの血が飛び散った。

 もうちょっと眠りたいところだが今日はたっぷり行動するし、時間はいくらあってもいいので早めの朝食をとってしまうことにした。 荷物を減らしたキャンプで定番のメニューであるパンとチーズとギョニソー。 一昨日の朝にサラダを食って以降、まったく野菜を摂取していないのが気になるが仕方がない、どこかで売店で飲み物を買うときは野菜ジュースでも飲むことにしよう。 いつものキャンプならここで儀式的に朝のコーヒーor紅茶を沸かすところだが、湯を沸かすことすら嫌な暑さなのでバーナーに点火することはなかった。
 暑いといえば昨日の夜中もほとんど気温は下がらず風も無かったため、寝袋代わりに持ってきたクローアップシーツすら使わなかった。シュラフカバーも持ってこないで正解だ。

 あまり意気の上がらない朝食を済ませた後、観光協会で貰ったパンフレットとガイドブック、カメラと三脚と手帳だけを持って走り出した。

 こちらでの行動予定は基本的にその日の気分で決めることにしていて、基本シュノーケリング、気が向いたら山とかその他、って感じだったのだが、同じキャンプ地に泊まった自転車の二人組は昨日のうちに天上山に登って島のあちこちを周ったようなので、「じゃあ俺も行っておかないと話についていけないから」みたいな感じで天上山に行きたくなったのである。 
 とはいえ、くそ暑い炎天下の中500mを越える山を登るのはちょっとぞっとしない。 登るのなら朝早く日の低いうち、できたら曇りのほうがいい。  空を見ると昨日より雲がちなので、これは天が俺に天上山へ行けと言っておるのだろうな、と一人合点して天上山行きを決定したわけである。

 走り出して、前浜海岸の前から坂を上ってすぐに後悔した。ほとんど空荷でパニアバッグを外した状態でもすぐに全部のギアを使い果たす急坂。あっという間に体がオーバーヒート状態になり、押しが入る。キャンプ場を出てから一時間も立たないうちに喉が渇いて自販機のジュースにむしゃぶりついてしまった。
 運が良かったのはこの自販機が天上山に向かう道で最後の自販機であり、うっかり通過したら山に登る前にボトルの水を消費するところだったのだが、それをせずに済んだことだった。

 ジュースを飲み干した後自転車を押し続けていくと、すぐに家が少なくなり緑が増えてくる。 こういう道は基本車が走ることしか考えてないから無理に漕いで行こうとすることは無いのだ。 そうしてしばらくいると、何やら風神の絵の描かれた看板がある。

 「山の神・冷風穴」冷風穴



なんでも夜のうちに山頂で放射冷却で冷やされた空気が閉じ込められ、通ってくる間も山腹に生えているシダ植物などのために冷気が拡散することもない為、何時でもひんやりした空気がでてくるんだそうである。

 「またまた・・・(笑)」

 富士山の風穴のようにデカイわけでもなく(行った事無いけど)、しゃがんでやっと入れる位しかない小さな穴、しかも奥行きが無いのにそんなわきゃない・・・と半信半疑で前に座ったところあれまびっくり、クーラーより冷たい風が心地よく吹いてくるではあーりませんか!

 中にカマドウマとかムカデとかヘビとかいたら嫌だけど、意を決して入り込んで座ってみる。汗が一気に引いていくような冷気に体が包まれ非常に気分がいい。外から冷房がガンガン効いた喫茶店に入ったような感触だが、不自然な寒さではなくややまろやかだ。 中に温度計が設えられていたのでよく確認してみると、この洞の中は10℃前後しかないのだった!! 外は30℃だから実に20℃近い差である。ガンガン冷房の効いた喫茶店どころじゃなかったが、涼しさがまろやかなのが不思議なところである。  それはそうと10℃しかないのなら、これがキャンプ場の近くにあれば野菜や肉を置いておけば一日ぐらい安心ではないか!勿体無い!

 この穴の中で丸まって完全に汗が引くまで休憩してから出発し、天上山のメインルートである黒島登山口に取り付いたのは7:00丁度であった。
天上山黒島登山口
式根島のときと同じ服のような気がするが気にしないように

 登山道は幅が狭いものの、石で整備され階段状になっているのでそれほど難易度が高いわけではない。 しかし、こちらの足ごしらえがトレッキングシューズやトレイルランニングシューズではなく、靴裏にクリートのついたMTB用ビンディングシューズのため油断をしていると足を取られそうになる。 去年の八丈島行きでも自転車で走るのを重視してビンディングペダル&シューズで行くか、クリップペダル+トレイルランニングシューズで行くか迷ったが、さすがにこの道だと(MTB用とはいえ)ビンディングシューズでは厳しい。
 自然、足下を向きながらの登山となるのだが、とにかくこの山はトカゲとカナヘビが多い。樹木はというと、斜面が急で冬場に強い風が吹き付ける環境のせいか高い木は生えておらず、みな背の低い潅木ばかりである。 必然視界は非常によく開けているのであるが、登山道は山の同じ側の斜面をジグザグに登っているので眺望にほとんど変化がなくやや単調だ。 ただ、登ってきた分だけ明らかに高度が稼げてるのがわかるのと、標高を20~30m稼ぐごとに「○合目 標高○○m」という標識とベンチが現れるので成果が判り易く励みになる。

 そんなこんなで一時間ほどがんばると山頂に到着。「えっ?」というくらい早いが、この山は山頂が広く、最高地点もまだまだ先にあるのでこんなものなのである。

 とりあえず昔の要塞というか防塁だった石累と黒島展望地に登る。 すると海側から雲というかガスが上がってきて、急に視界が閉ざされはじめた。曇っていたから覚悟はしていたのだが、霧までとは。
展望地は早々に切り上げて、表砂漠、最高地点、天空の丘などをエイエイとクリアしていく。 実際回ってみると、ここは「てっぺんまで登っていい景色見てハイ終わり」ではなく、登った後のほうが見所がある。最高点に来た時には濃霧で下界の展望はゼロに等しかったが、それまでの潅木地帯が切れて現れる荒涼とした砂漠などを見てしまうと「視界が利かないからすぐ降りちゃおう」とはとても思えない。

天上山山頂

 新東京百景の展望地などは濃霧で台無しであったが、その後に周った裏砂漠などは濃霧のおかげでむしろ幻想的な雰囲気が倍化されていた。 「裏」と名がついているものの、広さといい変化に富んだ地形といい、砂漠としてはむしろこっちが本命と言って差し支えないのではあるまいか。
 ここには必死にへばりつくように僅かなツツジが生えているだけだが、この荒涼とした砂地のおかげで降った雨は素早く地面に浸み込み、無駄に流れ出したり蒸発することなく有効活用されるのであろう。

裏砂漠


 最後に黒島展望地から遠めに見えた千代池(上から見るとそのまんまひょうたん)を周り、黒島下山口から下山。 空荷ならばもうひとつの白島下山口から降りたいところだが、黒島登山口に自転車を置いているので仕方がない。 急な石の階段を下っていくのだが、やはりこの急な坂だと降りの方が恐ろしい。 しばらく行くと先のほうに下山者が見える。 俺のほうが先に上ってきたはずなのに!すれ違わなかったし、今まで人の気配はなかった。なぜだ!白島側から来たのか?と頭を高速回転させたのだが、何のことはない、黒島下山口にたどり着いたところでガスが酷いので諦めてさっさと降りてきただけのことらしかった。

 とりあえず課題である天上山をクリアしてホッとすると、上昇してきた気温ととりあえず忘れていた日焼けした体の火照りがダブルでやってきた。 登山口まで無事戻ると、トイレの洗面台でシャツを洗い、濡れたまま着用。 ウィックロンだしどうせすぐ乾いて、そしてまたすぐ汗でびちょびちょになるのだろう。

 再び自転車にまたがり、次なる目標は多幸湾。 多幸湾に下る道は高処山に挟まれているので一部登りもあるが、基本下りなのでこれまでとは違いかなり楽だ。 ただし、神津島の道路は普通のアスファルトとは異なり、コンクリートパネルを張り合わせたような道路、おまけに見通しの悪いカーブがまだんなく現れるので「軽快に飛ばす」というわけには行かない。 慎重に下っていくと、いつの間にかキャンプ場の中に入り込んでしまった(キャンプ場が広大で道路を挟み込むようにできているため)。

 とりあえず炊事棟で水を補給し、次なる目的地「多幸の湧水」を目指す。 ただ、手元の地図がいい加減なのと人に聞いていないのでどこだかわからない。彷徨った挙句日向神社に入り込み、手水台の水を「これかな?」とアタリを付けたのだが、柄杓にナメクジがついていたので慌てて逃げ出した。

 どこが湧水地かさっぱりわからないのだが、日向神社に行く途中でかいコンクリート製の揚水ポンプがあり、その脇を水が流れていたのでそこを遡って行くと、岩の割れ目から清冽な水が流れ出していた。 さらに登ると水脈は倒木の下のに隠れ、地表に流れ出している気配はないのでここが最上流であろう。 

湧水


 早速そこのボトルにとってみると、驚くほど冷たい。 飲んでみると、とにかく爽やか。冷たい水を飲めば、喉をつたって冷たい塊が落ちていく感触があるものだが、そういった抵抗感がまるでない。 ストンと胃まで落ちて行くというより、飲んでいくそばから口の表面や食道から体の細胞に吸収され、胃に落ちていく前に体と一体化してしまうような感覚だ。
 あまりにうまいので、瞬く間に750ccボトルに二杯飲み干してしまう。 これが多幸の湧水の力か!地元のお年寄りが今わの際に「死ぬ前に飲みたい」というのもわかる気がする。 

 ちなみに、本物の多幸の湧水は海岸沿いに水汲み場が設えてあり、そこが正しい「多幸の湧水」らしいのだが(こんな感じ↓)
http://yamaki.blog.so-net.ne.jp/2007-08-01-2
それほど離れているわけでないし、こっちは岩から割れて出たばっかり、塩ビパイプも通っていない完全無欠の天然水なので多幸の湧水を飲んだと自慢しても差し支えあるまい。

 
 飲めるだけ飲んで、ボトルにもたっぷり詰めて走り出したのだが、あまりの暑さのため多幸の湧水パワーはあっという間に尽きてしまった。ちょっときつい坂になればすぐに押し、なかなか距離が稼げない。

 空港に見慣れない飛行機(ドルニエ)が待機していてもカメラを向ける気になれない(ちなみに集中豪雨と雷のため、自分が見た次の便は引き返してきたそうだ)。曇っているせいもあるが、展望台でも5分も眺めないうちにすぐ出発してしまう。 
 神津島灯台も遊歩道入り口まで来たのだが、小高い丘の上にある灯台を見たとたん登っていくのが嫌になり、引き返して千両池に向かってしまった。 千両池の入り口につくと、さっき引き返した神津島灯台と繋がっており、ああ、無駄な事をしてしまった、とさらにダウナーになる。 登山を挟んだ強行軍なのに、あの簡単な朝食以降何も食べていないし、暑さもきついしでへばってしまったらしい。
  それでも見ておかないと損だわな、と急な斜面を降りていったのだが、こうしたところが得意とは言いがたいビンディングシューズだし、ここで落ちて怪我でもしたらアホらしいので上から写真を撮っただけでここも途中で引き返してしまった。

 下のほうで家族連れと思しきはしゃぎ声が聞こえる。遊泳禁止と書いてあったが、やっぱり超一級のスノーケリングポイント、この崖を降りて泳ぐ(潜る)人もいるようだ。 たっぷり潜った後またこの崖道を登ってくるというのはちょっとぞっとしないが、「天上山に登らず」「ここまで車で来て」「足元は足袋靴(磯を歩くのにも良い)」というのならまったく違った考えになっているだろう。
 
 

 千両池から道に戻ると、残る大物はありま展望台とオタアジュリアの十字架だ。 すきっ腹を抱えてようやっとたどり着くと、ありがたいことにジュリアの十字架と展望台は隣接しているのでありました。 東京湾で釣りをしている時にバカでっかい観音像が目に入ると果てしなく暗い気持ちになるが、このジュリアの十字架はシンプルなデザインもあって心なしか残波岬の灯台を髣髴とさせる。 今はやや曇っているが雲ひとつない青空に映えていたらそれは素敵なことだろう。

オタアジュリアの十字架


 なんとなく心が洗われるような気分になり、道に戻るといよいよ前浜へ戻る道となる。 朝8時に天上山登頂を果たしたときには12時には前浜に戻ってこれると思ったのだが、とりあえず自販機があるくらいの所にたどり着いたときには一時を周っていた。 多幸で汲んだ水はとっくに飲み干していたので、自販機でファンタを飲む。冷たく甘く、炭酸の爽快感もあるにはあるのだが、カラダへの一体感というか、筆舌しがたい満足感のようなものではあの湧水のほうが良かったような気がする。

 さらに進むと、島で一番大きいスーパー「神津ストアー」があったのでとりあえずカットスイカを購入し、野菜不足を解消すべく頬張った。 しかしこんな物では山を登り走り回って消耗しきったカラダへの補給は覚束ない。 ちゃんとしたメシを食わないとと思うのだが、海岸沿いの店ではカレーとかなんとなくそそらない物が多い。 美家古寿司の支店もあったが、寿司ってのはいかにも贅沢っぽくて敬遠。
すると港に「営業中」の幟が。 観光協会の隣の建物で、海産物を扱っている「よっちゃーれセンター」だったが、この二階が食堂になっていたので一も二もなく飛び込んだ。 真鶴の魚座にしてもそうだが、この手の店は100点はなくても、値段と味と量を換算すればまず大体及第点をクリアしていることが殆どなので安心していいのである。
 入ってみると食券制だし、メニューの写真はやる気ないしでちょっと心配になったが、出てきた刺身定食が豪勢だったのであっという間に不安は払拭された。ネタはメジナ、シマアジ、マグロ、アカイカ、イサキ。それぞれ分厚くきってあるのでかなりのボリュームである。 また、一緒に出てきた味噌汁が特色があり(特産のテングサから作った心太が入っている)これまた非常にうまかった。
 とりあえず味と値段の相場はわかったので明日は他の店も回ってみるだろうが、納得が行かなければ明日の昼飯もまたここに来ればいい、店員の女の子も皆可愛いし。。

 腹の膨れたところでキャンプ場に戻り、赤崎へ向かう。 昨日のミスに懲りていたので上半身は着たまんま海に飛び込むつもりで、昨日着て汚れたシャツに着替えた。 海から上がっても濡れたまま走っていればすぐに乾くだろう。

 そうして潜った赤崎はやっぱり素晴らしく、明日はもう朝からずっとここで潜ってよう、とすぐに心に決めてしまった。 昨日と同じく4時過ぎまで潜ってから撤収。シャツは目論見どおりキャンプ場に戻る前に乾いた。

 メシの前にガイドブックを見ていたら、お土産に考えていたクサヤを売っている水産加工店が明日は定休日なのに気づき慌てて買いに行く。ところが8月中は休まず営業してるそうな。ずっこけた。
 クサヤとイカの塩辛を購入した後、集落内をぶらつく。小さな神社や、ジュリアの墓地や顕彰碑など、細かい史跡が集落に点在しているのだ。

 その後キャンプ場でレトルト中華丼の晩飯。 昼飯が遅かった上にしっかり食ってしまったので晩酌のつまみ用のサンマ缶はまたも出番なし。

 寝る前に水シャワーを浴びたのだが、やっぱり背中は火照ったままで相変わらず寝苦しかった。 
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テーマ : 国内旅行
ジャンル : 旅行

tag : 神津島 天上山 登山 砂漠 オタアジュリア 多幸湾 湧水 名水 千両池

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Author:piccoli
 自転車、釣り、スノーケリングにハイキングとアウトドア遊びばっかしてる不良中年です。 主な出没地域は三浦湘南、真鶴に奥多摩周辺。 

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